
BE Health Ventures投資・臨床戦略副総経理 Joseph Shen
AI医療製品はモデル性能で評価が分かれると思われがちですが、実際に審査が停滞する原因の多くは、使用目的(Intended Use)の数行の記述にあります。一見妥当と思われる表現であっても、FDAの文脈において、Intended Useはマーケティング文やビジョンではなく、規制上の分類を決定づける出発点と位置付けられます。特に画像AI領域では、CADe / CADx / CADt(Triage/Notification)の区別は、主に使用目的、出力形式、および対応する規制分類とproduct codeに基づいて判断されます。
動詞を一つ誤るだけで、その影響は軽微な修正にとどまらず、製品全体が別のカテゴリとして解釈される可能性があります。その結果、試験戦略、臨床エビデンス、ラベリング(表示)、およびpredicateの論証に至るまで、すべての整合性が損なわれることになります。以下では、審査官の思考プロセスに沿って、典型的な留意点を整理し、実務上適用可能な修正方法を示します。
一、CADe、CADx、CADtの違いとは
画像AIの審査における基本的な考え方は極めて明確です。すなわち、「どのような出力を行うか」によって、「どの意思決定を支援しているか」が示されます。
CADe(detection)
CADeの本質は「疑わしい領域の検出および位置特定」にあります。典型的な出力はROIやマーキング(囲み、強調表示など)であり、良悪性の特性評価や診断結論は提供しません。
CADx(diagnosis / characterization)
CADxの本質は「特性評価または診断的な出力」にあります。例えば、悪性確率、分類、重症度、ステージングなどが該当し、通常はROIや特徴量を基盤として、臨床判断に資する情報を提供します。
CADt(triage / notification)
CADtの本質は「症例の優先順位付けおよび通知」にあります。典型的には症例単位のフラグや優先度スコアを出力し、ワークリストの再配列やユーザーへの通知に用いられます。一般に、病変の位置特定や診断は行いません。
これらを規制およびproduct codeと対応させると、FDAの分類体系は一貫しています:
- CADt:21 CFR 892.2080、代表的なproduct codeはQAS
- CADx(腫瘍疑い病変):21 CFR 892.2060、代表的なproduct codeはPOK
- CADe/CADxの複合:21 CFR 892.2090(検出+診断)、例として乳房領域のQDQ
- その他、検出を主目的としたCADeには、NWE/OEB/OMJ/MYNなど複数のproduct codeが存在
これらは単なる用語の違いではありません。使用目的における動詞および出力の記述は、そのまま審査官による分類判断の根拠となります。
二、審査官が「510(k)初期段階」で想定する5つの論点
- 本製品はCADe、CADx、またはCADtのいずれに該当するのか?(product codeにより要求されるエビデンスが決定される)
これは最も重要な論点の一つです。FDAはモデルではなく、使用目的および出力形式に基づいて分類を判断します。
典型的な誤りとして、CADtとして位置付けながら、「病変の位置をマーキングする」といった記述を含めてしまうケースがあります。このような場合、審査官は自然にCADeまたはその複合カテゴリとして解釈します。CADtは本来、症例単位のフラグを出力するものであり、通常は位置特定や診断を伴いません。
修正の考え方:
- CADtとする場合は、出力を「フラグ/優先度/通知」に限定し、病変レベルのマーキングを示唆する表現は避ける
- マーキングを行う場合はCADeとして明確に定義し、「診断を行わない」「分流を行わない」ことを明記する
- 「CDSであるため医療機器ではない」とする主張は成立するか?(画像AIは原則としてDeviceに該当)
多くの開発チームが「CDSであり医療機器ではない」と主張しますが、FDAの2022年最終版CDSガイダンスでは4つの基準が示されており、そのいずれかを満たさない場合は医療機器と判断されます。
特に画像AIにおいては、医療画像や信号の取得・処理・解析を行う時点で基準を満たさないケースが多く、結果として多くがClass II / 510(k)の規制対象となります(例:QAS/POK/QDQ)。
実務上の留意点:
医師の判断を「支援する」と位置付けることは可能ですが、「代替する」と解釈される表現は避ける必要があります。
- ユーザープロファイルの設定が広すぎないか?
「一般医師や看護師でも使用可能」といった記載は、審査上のリスク評価を引き上げる要因となります。FDAはHCP(医療従事者)か否か、および判読能力の有無を重要な判断要素としています。
より適切な記載としては、「当該領域において必要な判読訓練を受けた医療専門職」とすることが望まれます。
- 適用範囲とデータの代表性は整合しているか?
「すべての成人CTに適用」といった広範な記載は、その裏付けとなるデータの代表性および検証負担を大きく引き上げます。
近年の承認事例では、検出、トリアージ、セグメンテーション、ワークフロー支援といった用途に焦点を当てたものが中心であり、単独診断を広く主張するケースは多くありません。
使用目的の記載においては、「臨床状況+入力+出力の制約」を明確にすることで、適切な範囲設定を行うことが重要です。
- 記述の中で意図せず「診断的出力」を含んでいないか?
「確率」「悪性度」「分類」「ステージング」などの表現を含めると、意味的にはCADxに該当し、審査官のリスク評価および要求されるエビデンスが変化します。
三、実務で使用可能な使用目的(Intended Use)の記載フレーム(審査観点を踏まえた整理)
第一に、動詞の選択を適切に行うことが重要です。
- CADt(QAS)の表現:identifysuspected findings → notify / prioritize for earlier review(症例単位のフラグ/優先度。通常は位置特定や診断を伴わない)
- CADeの表現:detect / highlight / mark suspiciousregions(ROIやマーキングを行うが診断は行わない)
- CADx(POK)の表現:characterize lesions / assess likelihood / categorization(診断または特性評価の出力)
動詞レベルの選択が適切であれば、その後の整合性の大部分は自然に保たれます。
第二に、入力および出力は「検証可能な形」で記述します。
- 入力:DICOM形式のCT、MRI、胸部X線など
- 出力:症例単位のフラグ/優先度スコア、または病変レベルのROI/マーキング、あるいは確率/分類
FDAは出力形式に基づいてCADt/CADe/CADxの区別を行うため、この点は極めて重要です。
第三に、臨床ワークフローにおける位置付けを明確にします。
- CADt:ワークリストや通知機能における優先順位付け(re-order、alerts、notifications)
- CADe:セカンドリーダーとしての注意喚起
- CADx:病変認識後の意思決定支援
ワークフロー上の役割を明示することで、「判断の代替」ではなく「判断の支援」であることを明確にできます。
四、DHFにおいて準備すべき成果物
- DOC-001 Intended Use Statement(内部承認および版管理用)
- DOC-002 Indications for Use(提出資料と整合した対外文書)
- DOC-003 Clinical Workflow & Use EnvironmentMap(triage、同時読影、second read等の位置付けを明示)
- MAT-001 Output Definition Matrix(入力→出力→臨床用途→検証方法を対応付け、出力形式と使用目的の整合を確保)
- TPL-001 Labeling / IFU Outline(臨床医の関与および制限事項を明確化し、自動診断と誤解されないようにする)
補足:代表的な誤記とその修正例
誤記1(CADtを想定):
「脳出血の位置をマーキングする」
この表現は病変レベルの位置特定を示唆するため、CADtではなくCADeとして解釈されます。
修正例(CADt):
「本ソフトウェアは、XXXが疑われる画像検査を識別し、通知または優先順位付け機能を通じて臨床レビューの優先化を支援する。」
誤記2:
「Automatically diagnoses…」
この表現は自動診断を想起させるため不適切です。
修正例(CADe):
「本ソフトウェアは疑わしい病変領域をマーキングし、訓練を受けた専門家による検出および判読を支援する。」
誤記3(セグメンテーション/計測):
「治療判断に使用する」とのみ記載
この場合、責任分担が不明確となり、自動的に治療判断を行うと誤解される可能性があります。
修正例:
「本ソフトウェアは臨床判断のための参考情報を提供するものであり、最終的な判断は医療専門職による確認および修正を前提とする。」
五、まとめ
画像AIにおいて、使用目的は単なる説明文ではなく、製品を「分類可能かつ検証可能な対象」として定義するための出発点です。FDAにおけるCADe、CADx、CADtの区分は、最終的には使用目的および出力形式によって判断されます。
必要に応じて、使用目的の各文について審査官の視点でのレビュー(Reviewer Simulation)を行うことも可能です。出力形式に基づくproduct codeの適合性評価、および表現の調整による誤分類リスクの低減について支援いたします。
詳細については、Joseph.Shen@behealthventures.com までお問い合わせください。






